
労災保険と雇用保険の2つをあわせて労働保険といい、1人でも労働者を雇い入れて事業が行われているかぎり当然適用事業所となります(但し、一部の農林水産の事業は除く)
労働保険は一時期「過労死」問題で話題になりましたが、業務上または通勤途中の事故などが原因で病気・ケガ、死亡した場合に必要な給付を行う制度です。
主な給付は、労災指定病院などで病気・ケガが治るまで必要な治療を受けられる療養(補償)給付、病気・ケガのため労務不能になった場合に一定の所得補償が受けられる休業(補償)給付、障害になった場合の障害(補償)給付、死亡した場合に遺族に支給される遺族(補償)給付などがあります。
労災保険は、通勤災害を除き健康保険のような自己負担金はなく、通勤災害の場合でも最初の治療を受けたときに200円支払う負担があるだけです。また、保険料も全額会社負担となっているため給与からの控除はありません。ときどき、労災保険料の負担もバカにならないから従業員の給与から控除したいと言い出す事業主がいますが、それは違法行為なので止めましょう。
雇用保険とは、主として退職した場合や勤めている会社が倒産した場合などに失業者が再就職するまでの一定期間(90日〜330日まで)失業補償として一定金額の生活費を支給する制度です。
また、60歳以上の高年齢者の雇用機会の継続を援助する高年齢雇用継続給付や、英会話、パソコンスクール、仕事に必要なビジネススキルを習得するために資格の学校に行く費用を負担する教育訓練給付など失業予防にも役立っています。
保険料率は、一般の会社の場合1000分の19.5となっており、このうちの被保険者が1000分の8、会社が残りの1000分の11.5を負担することになっています。笑いばなしのようですが、以前ある事業主から雇用保険の満期はいつですか?と質問されたことがあります。私は、雇用保険は掛け捨てなので満期返戻金はありませんのでご了承くださいと答えました。
労災保険に未加入の事業主はご注意!
平成17年11月1日から労災保険未加入の事業主に対する費用徴収制度が強化され、これにより事業主が労災保険の加入手続きを怠っていた期間中に労災事故が発生した場合、遡って保険料を徴収するほかに、労災保険から給付を受けた金額の100%または40%を事業主から徴収することになりました。
行政指導等を受けたにもかかわらず労災保険の加入手続きを行わない期間中に業務災害や通勤災害が発生した場合
⇒ 「故意」に行わないものと認定し給付額の100%を徴収
行政指導等を受けてはいないものの、労災保険の適用事業となったときから1年を経過して、なお加入手続きを行わない期間中に業務災害や通勤災害が発生した場合
⇒ 「重大な過失」により行わないものと認定し給付額の40%を徴収
*療養開始後3年間に支給されるものに限り、また療養(補償)給付及び介護(補償)給付は除きます。
社労士が体験した怖い労災死亡事故
私は以前、ある会社で1年半の間に4人の労働者が業務上災害で死亡し、その後の療養補償給付、休業補償給付、遺族補償給付及び葬祭料の請求など事務手続きを行いました。
さらに残された遺族と会社との示談交渉のための損害賠償額の算定資料を作成した経験から、会社側の不法行為又は債務不履行責任により労働者1人が亡くなった場合には、会社に膨大な金銭的負担が生じることを肌で感じたのです。
特に驚いたのは損害賠償額の算定です。損害賠償額は「財産的損害」と「精神的損害」に分けられますが、財産的損害では「新ホフマン方式」を一般に用い、その際に通常労働可能年齢を67歳までとしているため、死亡日当時の年齢を差し引いた年数まで労働できるものとして逸失利益を算出しているのです。
算出例
【労災死亡時30歳、独身、年収300万円】
逸失利益=年収300万円×(1−生活費控除率50%)×新ホフマン係数20.625=30,937,500円
【労災死亡時50歳、世帯主、年収600万円】
逸失利益=年収600万円×(1−生活費控除率35%)×新ホフマン係数12.077=47,100,300円
以上の計算式からも分かるように60歳定年制のなか(平成18年4月からは段階的に65歳まで雇用確保義務となります)、67歳まで就労可能と判断し財産的損害額で3千万円〜5千万円、さらに精神的損害である慰謝料と香典・見舞金が加算され、退職金制度のある会社は遺族に退職金の支払い義務までが生じるのです。
労災保険給付は、前払一時金最高限度額を限度とする履行猶予方式および労災保険給付の支給停止方式によって民事賠償と調整されますので、会社にとっては労災保険はメリットもあるのです。
私が経験したケースも試算したところ4人で2億円を超えてましたので、仮に労災保険に未加入だとしたら費用徴収等のことを考えるとゾッとします。
最後に、私たち社会保険労務士は、労災保険は民事賠償との調整があるので会社側のメリットばかりを強調しがちですが、残された遺族に対して遺族補償給付、遺族厚生年金及び葬祭料の金額を算出して将来への安心を提示してやる責務があるのではと考えてます。そのような誠意があるからこそ、残された遺族は会社側が提示する示談書にサインをしてくださるものだと思っています。
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